アデレード大学のマイケル・デービス博士の論文

よく「合成葉酸を妊娠後期に摂取すると、生まれてきた子供が喘息になってしまうリスクが高くなる」と言われていますが、その根拠は海外のある研究論文によるものです。

 

翻訳したものが見つからなかったので仕方なく原文にあたりました。

 

アデレード大学のマイケル・デービス博士の論文

 

2009年の10月30日に疫学専門誌「American Journal of Epidemiology」(2009年11月4日号)でオーストラリアのアデレード大学のマイケル・デービス博士により

 

Effect of Supplemental Folic Acid in Pregnancy on Childhood Asthma: A Prospective Birth Cohort Study」という研究論文が発表されています。
http://aje.oxfordjournals.org/content/early/2009/10/30/aje.kwp315.full.pdf+html

 

実験内容を簡単に言うと、

 

オーストラリアで1998年から2005年まで、赤ちゃんが生まれてから3.5年間の調査では490人、5.5年間の調査では423人が研究に参加しました。妊娠初期(16週以前)と妊娠後期(30〜34週目)において食物頻度アンケートを行った結果、3.5年の調査で11.6%、5.5年の調査で11.8%の子供たちに喘息が報告されました。

 

3.5年の調査で妊娠後期にサプリメントで葉酸を摂取したときに1.26倍のリスクで小児喘息に影響を与えることが判明しました。なお、5.5年の調査では統計的有意性に達しませんでした

 

 

 

葉酸サプリを摂取したタイミングの内訳ですが、

 

葉酸サプリを摂取したタイミングの内訳

 

妊娠前のみ  35人(7.1%)
妊娠前+妊娠初期 84人(17.1%)
妊娠前+妊娠後期 21人(4.3%)
妊娠前+妊娠初期+妊娠後期 76人(15.6%)
妊娠初期のみ 60人(12.2%)
妊娠初期+妊娠後期 60人(12.2%)
妊娠後期のみ 30人(6.1%)
サプリを摂取しなかった 76人(15.5%)

 

やっぱり一番多いのは「妊娠前+妊娠初期」の17.1%。次は妊娠前から妊娠後期までずっと摂取したのが15.6%、サプリを飲まなかったが15.5%と続いています。

 

これらのグループに分類分けして赤ちゃんが3.5歳になるまで継続して調査を続けたわけです。
これを妊娠初期、妊娠後期に区分けして、それぞれの期間で「食事から摂取」組と「サプリから摂取」組、そして「食事とサプリ、両方から摂取」組に分けて統計を取っています。

 

 

以下のような結果になっています。

 

小児喘息になるリスクの統計データ

 

(1)妊娠初期
・食事から (100μg/日)  1.09%
・サプリから(1000μg/日) 0.92%
・食事+サプリ(1000μg/日)0.93%

 

(2)妊娠後期
・食事から (100μg/日)  1.03%
・サプリから(1000μg/日) 1.26%
・食事+サプリ(1000μg/日)1.26%

 

(3)初期・後期混合タイプ
・初期に食事から (100μg/日) 1.15%
・初期にサプリから(1000μg/日)0.88%
・後期に食事から (100μg/日) 0.94%
・後期にサプリから(1000μg/日)1.32%

 

多少の誤差では統計的には意味がないようですが、1.26%はさすがに統計的に有効であると認められるようです。

 

また統計学的に厳密に言えば、「妊娠後期に葉酸サプリで1000μg摂取した場合の小児喘息リスクは1.26倍に高まる」と言い切ることはできません。

 

正確には「『「妊娠後期に葉酸サプリで1000μg摂取した場合の小児喘息リスクは1.26倍に高まる』と言えば100回中、95回は当たっているだろう」程度のものです。

 

上記の結果から分かることは

・アメリカ人はサプリで1日あたり葉酸を1000μgも摂っていた(多すぎ!)。
サプリの場合、妊娠初期は小児喘息のリスクは下がるが、妊娠後期は逆にリスクが高くなる
・食事から葉酸を摂取する場合は小児喘息へのリスクを下げることもなければ上げることもない。

 

 

外国語の論文なので正直、細部までは理解できませんでした。特に(3)の混合タイプは、初期に食事から摂取→後期はサプリから摂取、のような組み合わせなのかなと思いましたが、それだと2パターンで十分です。(1)・(2)と(3)が具体的にどう違うのかイマイチ分かりませんでした。もし分かる方がいたら指摘していただきたいです。

 

 

補足

 

上記の調査は葉酸サプリを1日あたり1000μg摂取した場合のデータです。日本では厚生労働省が葉酸の1日あたりの上限摂取量を1000μgと定めています。普段の食事からも200〜300μgは摂取できているので、葉酸サプリを飲みすぎなければ1000μgを超えることはないと思われます。

 

つまり使用上の注意をよく守り、1日あたりの摂取量を400μgにする限りは上記のデータは当てはまりません。要は、過剰摂取しなければ、妊娠後期に合成葉酸を摂取しても全く問題はありません。

 

葉酸サプリメーカーの一部では「合成葉酸を妊娠後期に摂取すると、生まれてきた子供が喘息になってしまうリスクが高くなる」という部分だけを抜粋して、合成葉酸の危険性を煽る傾向がありますが、あまり乗せられないように気をつけましょう。

 

ちなみに上記のまとめでも分かるように食事から葉酸を摂取した場合に小児喘息のリスクを下げるという効果は認められていません。つまり天然葉酸を摂取した場合はリスクを下げることはないが、合成葉酸ならばリスクを下げることができるわけです。だったら合成葉酸で十分なのでは?と思われます。

 

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